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「誰かの支えに」

2020.09. UPDATE
 日本記録を16種目も保持する、二十歳の競泳選手、池江瑠花子さんが白血病と闘っていることは、みなさん知っていることと思います。

 「一人のアスリートとして、そして一人の人間として少しお話しさせてください」と、東京オリンピック・パラリンピックの開会式が行われる予定だったその日、観客のいないメインスタジアムから世界へ向けて「メッセージ」を発信しました。

 「思っていた未来が、一夜にして、別世界のように変わる。それは、とてもきつい経験でした」。
 「そんな中でも、救いになったのはお医者さん、看護師さんなど、たくさんの医療従事者の方に支えていただいたことです。身近で見ていていかに大変なお仕事をされているのか、実感しました」。

 信頼できる医療人、プロフェッショナルとの出会いがどんなに救いとなることか。アスリートとして活躍する池江さんが、突然、深刻な病と向き合う中で心から出てきた言葉でしょう。そしてそれは、病魔と闘う多くの患者が抱く想いでもあるでしょう。

 胃や食道の癌を専門にする外科医である、近畿大学の塩崎均名誉学長は、05年秋、同大学医学部附属病院長のとき、最先端の検査機器PET(陽電子放射断層撮影)の稼働テストでたまたま被験者として癌の検査を受け、その結果、なんとステージ4の末期癌であることが判明しました。進行性の悪質な癌で、腹部と周囲のリンパ節に転移している検査結果がモニターに映し出されていたといいます。カウントダウンはすぐそこに迫っていました。幸い、抗がん剤、放射線治療、胃の切除手術に加え、強い信念で向き合い、奇跡的に克服することができましたが、癌の専門医が癌になったことで、今まで自分が、いかに患者目線ではなかったかと痛い程分かったと述べています。

 「技術面は練習で改善できるが、院内の雰囲気作りや気配りとなると難しい」。
 「例えば、指示された仕事をてきぱきこなす看護師。医者にとっては頼もしいが、患者には冷淡な存在に映ることもある」。

 その後、塩崎先生は自身の闘病経験から、患者の声が寄せられる目安箱の活用に力を入れました。全ての意見に目を通し、良い面も悪い面も職員にフィードバックして、「全ては患者のため」とりわけ看護師は患者にとって天使にも悪魔になり得る、いかに身近で大切な存在かを身をもって感じたからこそ、少しでも改善しようと改革を断行していったそうです。

 患者には一人ひとりの人生があり、自分らしく生きるために寄り添ってくれる医療従事者は本当にありがたい存在です。つらい時に自分を支えてくれる人がいると病気に向き合う勇気が湧いてきます。

 医療業界の仕事は大変ハードで、山のように課題がある仕事だと思います。そのような中で技術だけではなく、様々な角度から向き合ってくれるのは本当に心強い。私も、家族を含めてこれまでにいろんな医療従事者にお世話になりました。「地獄で仏」「白衣の天使」と感じたことが少なくありません。「命の恩人」とプロフェッショナルな医療人に心から感謝する池江選手の気持ちに共感を覚えます。これから先、みなさんはさまざまな進路に向かって取り組んでいくでしょうが、本校卒業生の中から、人々の命を支える医療人が数多く生まれることを期待しています。

 最後に、最近の塩崎先生の言葉を紹介しておきましょう。「もし、あのとき癌が見つかっていなかったら、と考えることがある。それまでは、患者には暴飲暴食を避け、お酒はほどほどに。規則正しい生活を、と呼びかけながら、自分の生活は顧みることなく、まさに医者の不養生にほかならなかった。癌が判明したおかげで、野菜中心にバランスに留意し、量は適正に。おかずや主食を食べる順番まで意識するようになり、お酒もほぼ飲まなくなった。以前の生活を続けていたら、脳梗塞や心筋梗塞で既にこの世にいないかも知れない。癌になって悪いことばかりではなかった。患者として気づいたこと、そして自分の生活習慣が改善されたこと。得たものを考えると、むしろ良かったのではないかとも思う。一度人生の終わりが見えたことで、あらゆる面で物事の見方が大きく変わった。それまであたり前だった日常がどれだけ幸せなものかが分かった。やりたいことは早めに済ませておいたほうがよいと思うようになった。当時の私がそうだったように、今、働き盛りの人たちは仕事などに熱中してあまり健康に気を使わない人も多いだろう。だが、今日のことばかり考えていたらダメだ。健康に生きていられるからこそ、やりたいことができ、幸せを実感できる、生き存えてみて、心からそう思う。」

[出典:日本経済新聞]

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2020年09月
学校法人履正社 理事長
釜谷 等