みなさんは、EXPO2025大阪・関西万博に行きましたか?
学校から団体で訪れた人、家族や友人と一緒に行った人、それぞれに印象深い体験をしたことと思います。つい先日、私も初めて万博の会場を訪れました。一周およそ2キロの「大屋根リング」はまさに圧巻で、私はウォーキングを兼ねてじっくり見てまわりました。
さて、今から55年前、1970年にも大阪で万博が開催されていました。EXPO1970と呼ばれるその万博では、アメリカ館の「月の石」が最大の人気を集めていました。
私は当時18歳。長蛇の列に並び、ついに「月の石」を目にした時の高揚感はいまでも記憶に残っています。
この「月の石」は、1969年、アポロ11号が人類として初めて月面着陸に成功し、持ち帰ったものです。
もちろん、その偉業を成し遂げた宇宙飛行士は世界中の英雄となりましたが、その成功の裏には、地上から宇宙飛行士を支え、指示を出し、見守り続けた「管制官たち」の存在がありました。
驚くべきは、その管制官たちの平均年齢が約26歳だったという事実です。
1961年、当時44歳のジョン・F・ケネディ大統領は、「アメリカは10年以内に人類を月に送り込む」と宣言しました。38万キロメートルもの宇宙空間を越えて月に着陸し、無事に帰還させるという、壮大な挑戦。
そのプロジェクトを実現した中心が、20代半ばの若者たちだったのです。
心理学者リチャード・ワイズマン教授は、アポロ計画を支えた管制官たちに興味を持ち、後に著書『月に向かえ!』を執筆しました。調査を進める中で、教授はさらに大きな驚きを抱きます。
管制官の多くが、名門大学を出たエリートではなく、普通の家庭に育ち、特別な経歴を持たない若者たちだったというのです。
管制官チームのリーダーであるクリス・クラフトも、鉄道の町に生まれ、少年時代には荷下ろしや給仕の仕事をしていたといいます。彼が管制官に求めた資質は、「高学歴」や「肩書き」ではなく、誠実に働く姿勢、宇宙探査への情熱、そして努力を惜しまない意志でした。
結果として集められたのが、平均年齢26歳の精鋭チームだったのです。
管制官の一人であったジェリー・ボスティックは、こう語っています。
「私たちが若くても選ばれたのは、『できない』ということを知らなかったからです。『月に行く方法を見つけよ』と言われたので、ただそれだけに取り組んだのです」と。
ケネディ大統領が暗殺された後、彼らはさらに努力を倍加させ、彼の掲げた目標を必ず成し遂げようと誓い合いました。
それは誰かに言われたわけではなく、一人ひとりが「自分のやるべきこと」を知っていたからにほかなりません。
また、宇宙飛行士との通信を担当していたエド・フェンデルは次のように述べています。
「私たちが特別優秀だったとは思いません。今の若者の方が、はるかに優れた知識と道具を持っている。でも私たちには、正しい態度があった。『できる』という姿勢と信念、それがあったから成し遂げられたのです」。
心理学者ワイズマン教授は、アポロ計画の成功を支えた最も大きな要因を、「誠実さ」と「責任感」だと結論づけています。
ここで言う誠実さとは、時間や期限を守ること、手を抜かずに努力すること、先延ばしにしないこと、そして正直であること。
それらはすべて、生まれ持った才能ではなく、日々の意識と行動の積み重ねによって培われるものです。
誠実さは、学校の成績にも、仕事の成果にも、人生の幸福度にも、深く関係していると世界中の研究が示しています。
そしてそれは、誰にでも、今からでも身につけられるものなのです。
アポロ計画を支えた若者たちは、特別な才能を持つ天才ではありませんでした。
普通の環境で育った若者たちが、誠実に、責任をもって努力し、「できる」と信じて、ひとつの目標に向かってチームで力を尽くしたからこそ、月面着陸という人類の偉業は実現したのです。
みなさんの中には、「自分には特別な才能なんてない」と思っている人がいるかもしれません。
でも、歴史を動かしてきたのは、そういう「普通」の若者たちだったのです。
毎日の生活の中で、目の前のことにまっすぐ向き合い、誠実に努力を重ねていくこと。
それが、自分の未来をつくり出す力になります。
どんなことでもいい、まずは「自分にできること」から始めてみてください。
その一歩が、きっと未来へつながっていきます。
【参考資料】
リチャード・ワイズマン著『月に向かえ! 心理学が明かす「アポロ計画」を成し遂げた人たちのマインドリセット』ディスカバー・トゥエンティワン BBC「日本語版」2023年公開動画より
https://www.bbc.com/japanese/video-48977288