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理事長だより

2025.03 UPDATE

「Vol.73 万博が生み出す未来—EXPO2025 日本国際博覧会(大阪・関西万博)に寄せて」

 2025年4月13日、大阪で55年ぶりとなる万国博覧会(万博)が開催されます。

 万博は、単なる展示会ではなく、常に時代の転換点となる「未来への祭典」です。世界中の最先端技術と多彩な文化が交差し、新たな可能性が生まれる瞬間がそこにはあります。

 これまでの万博も、そうした革新の場でした。1851年のロンドン万博では蒸気機関が産業革命の象徴となり、1876年のフィラデルフィア万博では電話が世界を変える発明として登場しました。そして、1970年の大阪万博では、携帯電話、電気自動車、エアドームといった技術が披露されました。当時は「未来の夢」だったものが、いまや私たちの日常に欠かせないものとなっています。

 では、EXPO2025は、どのような未来を私たちに示してくれるのでしょうか。

 今回の万博のテーマは 「いのち輝く未来社会のデザイン」 です。このテーマのもと、再生医療、次世代エネルギー、そしてロボット技術といった分野で、革新的な取り組みが発表される予定です。

 例えば、大阪大学の澤芳樹特任教授が進める 「ミニ心臓」 の研究。iPS細胞を活用し、心臓移植の代替となる可能性を秘めた技術です。これが実用化されれば、移植を待つ患者の負担を大幅に軽減できると期待されています。

 また、CO₂の回収・再利用技術や水素エネルギーの研究は、地球環境問題の解決に向けた重要な一歩となります。そして、AIやロボットと共生する未来も、大きなテーマのひとつです。大阪大学の石黒浩教授が提案する 「アンドロイドと共に生きる社会」 は、人とロボットが共存する新たなライフスタイルを示唆しています。さらに、万博会場では空飛ぶクルマの実証実験も予定されており、人類の交通のあり方が大きく変わるかもしれません。

 しかし、万博が残す最大の遺産は、「技術」そのものではありません。それを目の当たりにした 「人」 の心の中にこそ、大きな影響が生まれると信じています。

 1970年の大阪万博を訪れた、8歳だったある少年は、そこで最先端の科学技術に触れました。彼の名は山中伸弥。のちにiPS細胞の研究でノーベル賞を受賞することになるのは、誰もが知るところです。また、同じ万博を訪れた小学3年生だった佐渡裕氏は、多くの言語や多様な文化に触れたことで、世界的な指揮者への道を歩み始めました。後に、万博でワクワクしたことがきっかけですと口をそろえて語っています。

 実は、男子校だった当時の本校の生徒たちもまた、1970年の大阪万博で貴重な経験をしました。全校生徒によるマスゲームを披露し、宝塚音楽学校のパフォーマンスの直前というプレッシャーの中、世界中の観客が見つめる前で演技をやり遂げたのです。全校が一丸となり、練習に次ぐ練習を重ね、万博という舞台で一役を果たしたその経験は、生徒たちの心に確かに刻まれたことでしょう。

 一方で、今回の万博には、さまざまな課題があるのも事実です。日本国内の世論調査では、7割の人々が万博への来場に否定的だと報じられています(3/25産経新聞)。さらに、海外館の一部が開幕に間に合わない可能性も指摘されています(3/26産経新聞)。物価高や国際情勢の影響もあり、かつてのような熱狂には至っていないのが事実のようです。

 しかし未来を創るのは、「そこから何を生み出せるか」 という前向きな姿勢です。

 1970年の大阪万博も、当初は懐疑的な声がありました。しかし、ふたを開けてみれば、5000万人(のべ6500万人)を超える来場者が訪れ、日本の未来に大きな影響を与える万博となりました。

 EXPO2025もまた、「終わってみたら、日本は変わった」 と言われる万博にすることができるはずです。そのために、私たちはどう関わり、どう活かしていくのか——せっかく開催される今こそ、その問いに向き合うときだと思います。

 万博の成功とは、単に経済効果や来場者数で測れるものではありません。むしろ重要なのは、そこから生まれる技術や文化が、どのように社会へ影響を与え、未来を築いていくかということです。

 特に、若い世代にとって、万博は 「未来を発見する場」 となるでしょう。未知の技術に触れ、新たな価値観に出会い、自らの未来を考える機会となる。そうした 「心の火」 を灯すことが、万博の真の価値なのではないでしょうか。

参考資料


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