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理事長だより

2024.04 UPDATE

「Vol.62 血ではなく智で」

 古今東西の歴史を振り返ると、人類は何度も「世の中が変わるとき」を経験してきました。では21世紀の世の中を変えるものはなにか。やはりAIの存在が大きいでしょう。「強いAI」といわれるAGIが開発され、技術革新が急速なスピードで進んでいます。それはまるで映画で描かれた世界のようにも思えてしまいます。 

 AIは世の中で既に浸透しており、知らず知らずの内に使いこなしている人も多いでしょう。ところでAGIとはなんでしょうか。AGI=人工汎用知能とはArtificial General Intelligenceの略称です。AI(Artificial Intelligence)は単一の特定分野について、ひとつのプログラムやアルゴリズム(方法や手順)を生かす限定的なシステムですが、それに比べてAGIはAIにGeneral=全般的な、という意味が加わります。広い範囲の能力や知識を得た人工知能のことを指すそうです。

 AGIはコンピュータが行う人間の言葉を解析して処理をしたり、画像認識といった作業に加え、私たちが思う「なんとなくおかしい」というような抽象的な概念や価値観を理解し、個々の状況に応じ適切に行動、選択することができるそうです。                

 また特筆すべきは、自分で修復と改善ができる能力を持っていることです。AGIは自分で学習し、進化することができる。つまり、人間のように新しい情報や経験を取り入れ、過去の行動や判断を反省し、より効果的な方法で問題に対処する能力を得ていくというのです。 

 ここで、ソフトバンク創業者・孫正義さんがAGIについて語った講演を紹介しましょう。孫さんは「自社グループを世界で最もAIを活用するグループにしたい」と考えているそうで、次のように語っています。

「AIがほぼすべての分野で人間の叡智を追い抜いてしまう、これがAGIのコンセプトです。AGIの世界が今後10年以内にやってきます。そしてAGIの世界では全ての産業が変わります。教育も変わる、人生観も変わる、生きざまも変わる、社会のあり方、人間関係も変わるんです」

 そして「AGIは人類の叡智の総和の10倍」と分析しています。

 またどのように活用されるか具体的な例をあげています。

・自動車などの、モビリティの完全自動化

・小売りや飲食店での、あらゆるデータを活用した完全な需給マッチング

・コールセンターでの、顧客の感情を理解し顧客ごとに最適な回答の案内

・投資では、数兆通りのシミュレーションから最適な戦略や投資の実行

・医療分野での、個人ごとの遺伝子解析によるパーソナライズ医療

 そして、さらに20年後には「ASI」の世界になる。ASIとはArtificial Super Intelligenceの略で、人類叡智総和の1万倍の叡智になる」と続けます。それは金魚と人間のニューロン数(※1)の比率と同じだと孫さんは言うのです。金魚と比べると人間のニューロンは約1万倍。あと20年ぐらいで人類とASIの知能の差が金魚と人間ぐらいになると言われると、どきっとしてします。

 「人類の進化の源泉は願望にある。強い願望が人類の未来をAGIとともに作る。敵ではなく味方としてあらゆる進化を遂げる。活用するのか、取り残される金魚になりたいのか。日本よ、目覚めよ」と熱いメッセージで講演は締めくくられています。

 「俺はアメリカに行って、事業家になるタネを必ず見つけてくる」と16歳で渡米し、自動翻訳機を開発。そして20代でソフトバンクを立ち上げた孫さん。行動力と情熱、時代を読む感覚は研ぎ澄まされています。

 誰もが恐れるように、人類の知能を超えるとされるAGIの存在は、誤用すれば恐ろしい結果につながりかねません。AGIによって人類の叡智の総和の10倍になるのにあと10年、そしてさらにASI によって1万倍になるのにたったの10年。「金魚になんかなりたくない」と講演録を読んで強く思いました。皆さんもきっと同じ思いではないでしょうか。 

 原子爆弾の開発者を描き今年アカデミー賞7冠に輝いた映画「オッペンハイマー」では、人類の存亡を左右する兵器を生み出してしまったことに苦悩し、核の使用について法整備を訴える場面が描かれています。人類が未知の技術革新に踏み込むと、良い面と悪い面が出てくるのが常ですが、悪い面の影響力絶大なのが過去の歴史です。

 日本の歴史を振り返ると戦国時代、明治維新、第二次世界大戦と”戦”を節目に世の中が変わってきました。世界の歴史においても戦争や革命で時代が変わりました。人々を殺傷する兵器としての技術革新が行われ、そのたびに多くの血が流され犠牲が払われました。リスクを知り、倫理観をもって、問題の検知や抑止、しっかりとした法整備など適切な対策が同時に必要です。いよいよ「ロボット」が「ロボット」をつくる時代が幕を開けてしまったようです。「血」ではなく「智」によって世の中が変わる。そうあってほしいと人類は強く願っているはずです。

(※1) ニューロン=情報の伝達と処理に特化した神経細胞

雑談


 AGIの世界がまるで映画のようだと冒頭に記したのは、1984年に公開されたSF映画の金字塔「ターミネーター」を思い出したからです。「ターミネーター」は人工知能が反乱を起こし人類は滅亡の危機に瀕しているという設定です。その危機に瀕している年が2029年。今年から5年後なんですね。

引用・太字


AIは「AGI」へと進化し、今後10年で全人類の叡智の10倍を超える。孫正義 特別講演レポート|ビジネスブログ|ソフトバンク (softbank.jp)

参考資料


「あんぽん 孫正義伝」(佐野 眞一著・小学館発行)

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