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理事長だより

2022.07 UPDATE

「Vol.41 ちょっと調べるは、ちょっとした愉しみ そのⅡ」

 今年は履正社創立100周年。およそ100年前の大阪で誕生したものについて調べてみたシリーズ、先月に続く第二弾です。今月はスポーツ編です。

 さて、100年前に高校野球の甲子園大会はあったのでしょうか。甲子園球場の誕生は1924年、本校と同じ頃に誕生しています。しかし、第一回の大会は甲子園球場ではなく、1915年に今はなき「豊中グラウンド」で実施されました。でもこの「豊中グラウンド」、野球だけではなく日本のスポーツの発展に重要な場所だったようです。

 「豊中グラウンド」は1913年に箕面有馬電気軌道(現阪急電鉄)が大阪府豊能郡豊中村(現在の豊中市玉井町3丁目)に設置しました。その頃の豊中はのどかな田園地帯。大正時代においては、日本でトップクラスのグラウンドだったそうで、オープニングの試合は慶應義塾大学vs米国スタンフォード大学戦が行われました。            

 そして完成から2年後の1915年に夏の甲子園大会の前身である「第一回全国中等学校優勝野球大会」が開催され、更にその3年後には「日本フートボール優勝大会」が開催されました。このフートボール大会は、微笑ましくも涙ぐましい努力の末に実施されたそうです。当時ラグビーは日本ではまだまだ普及していなくて、全国レベルにふさわしい学校は数校しかありません。近畿以外の地域から大阪まで行くことのハードルも高く、大学の出場を認めても4校しか集まりませんでした。そこで「サッカーも一緒にやって、なんとか全国大会の体裁を整えよう」と同時開催で行なわれました。サッカーとラグビーの試合が交互に行われ、そのせいで大会運営者でも戸惑いの連続だったとか。運営側の人数が足りず、やむなく野球取材の新聞記者がラインズマンを担当したと言うから驚きです。このような状況ではありましたがこの大会が第一回目となり、現在の「全国高校ラグビーフットボール大会」と「全国高校サッカー選手権大会」へと発展していきました。

 陸上競技においても、1912年、日本人が初めて参加したストックホルムオリンピックの翌年には豊中グラウンドで「第一回日本オリムピック(・・・・・・)大会」が行われました。これは今の日本陸上選手権大会の前身である第一回全国陸上競技会より1か月早かったため日本初の陸上選手権大会にあたるそうです。

 さらに、第3回日本オリムピック(・・・・・・)大会では、バレーボールとバスケットボールが公式戦として同グラウンドで行われ、これらも日本初の全国大会となりました。

 野球をはじめサッカー、ラグビー、陸上、バレーボール、バスケットボールと現在につながる全国大会が豊中グラウンドでスタートした。国際試合もあったそうです。大正時代には今の甲子園、花園、長居、国立競技場などで行われる試合が豊中で見られたということです。なんだかすごいことだと思いませんか。施設設備、競技のあり方、運営、選手の技術に加え、観戦スタイルなど今につながるスポーツ文化の黎明期がそこにあったのです。時代のおおらかさと、「やったろー!」という勢いが想像できます。選手も関係者も、観戦者も海外のスポーツ先進国に追い付け、追い越せと大いに盛り上がったことでしょう。

 しかしながら本校創立と同年の1922年、豊中グラウンドはわずか9年間でその役割を終えてしまったのです。理由は観客席が5000席ほどしかなく、野球の人気がどんどん高くなるにつれ観戦者を収容できなくなってきたため、運営する箕面有馬電気軌道は2万5000人を収容できる宝塚球場と、近接地にテニス場、陸上競技場を併設したスポーツセンターを開設。

 豊中グラウンドは住宅地に変貌し、高校野球は西宮の鳴尾球場で行われるようになり、その後甲子園球場に引き継がれ100年近い歴史を刻んできたのです。

 先日、かつて豊中グラウンドがあった跡地へ行ってきました。現在、その一部は「高校野球発祥の地記念公園」になっています。第一回大会から連綿と優勝校・準優勝校の名前がプレートに刻まれ、もちろん「履正社高等学校」の名前もありました。

 ほとんどは住宅地になっていますが、まさに「つわものどもが夢の跡」。身近な場所の意外な歴史を「知る」ことで自分の意識がちょっと変わる。それはちょっとした愉しみだなと思いました。

 豊中市は、「高校野球発祥の地・豊中」の名を広く全国に発信するため、平成22年(2010年)に「高校野球発祥の地・豊中 親善大使」の制度を設けました。初めて親善大使に選ばれたのは、市内にある履正社高等学校出身で、皆さんの先輩でもある東京ヤクルトスワローズの山田哲人選手です。


[ 参考 ]

■ 「一九一五年夏第一回全国野球大会 幻のグラウンドの第一号アスリートたち」 坂 夏樹著 さくら舎

■ 豊中市ホームページ「広報豊中8月号」
https://www.city.toyonaka.osaka.jp/joho/shoukai/gaiyou/baseball.html

■ Number
https://number.bunshun.jp/list/kw/%E8%B1%8A%E4%B8%AD%E9%81%8B%E5%8B%95%E5%A0%B4

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