中1財布の描写から小論文へ!?描写で育てる論理的思考力
今回は、中学1年生の言語技術の授業を紹介します。
まだ夏の名残を感じながらも、朝夕には少しずつ秋の涼しさを感じる10月。履正社中学校に入学してから、半年が経とうとしています。生徒たちも言語技術の授業に慣れ、考えたことを言葉にしたり、文章で表現したりすることにも、少しずつ自信がついてきました。
そんな中、今回の授業で取り組んだのは……
「私の筆箱の中身を説明しよう!」
「財布を説明しよう!」
「えっ、そんなの簡単じゃん!」
そんな声が聞こえてきそうな題材です。確かに、財布そのものは誰もが知っている身近なものです。
しかし、実はこのシンプルな課題には、とても大切な学びが隠されています。
描写とは、相手に伝わるように表現すること
今回の授業は、言語技術の単元でいう「描写」です。
描写とは、対象をよく観察し、その特徴や様子を具体的な言葉で表現することです。自分が見ているものを、相手にも同じように思い浮かべてもらえるように伝えることが求められます。
例えば、財布を説明するときに、
「これは、赤くて、チャックが結構頑丈で、ちょっと大きくて……あ、三つ折りの財布です!」
と、思いついたことを次々に話したらどうでしょうか。
説明している本人は分かっていても、聞いている相手は、結局どんな財布なのか、頭の中でうまく整理できないかもしれません。
形や大きさはどうなっているのか。色は何色なのか。素材は何か。どのような模様があり、どのような構造になっているのか。
まずは、対象の特徴をできるだけ多く挙げていきます。そして、それらを整理・分類し、必要な情報を選び、順序立てて説明することで、相手に伝わる文章になります。
大切なのは、ただ目に見えるものを言葉にすることではありません。
何を、どのような順序で、どこまで具体的に伝えれば、相手に正しく伝わるのか。
そこを考えることが、描写の学習です

構造図を作る。その中にある大切な考え方
この授業で重要になるのが、「構造図」を作ることです。
構造図とは、対象の特徴や情報を枝分かれさせながら整理する図です。いわゆるロジックツリーのようなもので、頭の中にある情報を目に見える形にすることで、全体像を捉えやすくします。
例えば、財布について考えるなら、形・色・素材・大きさ・収納・開閉方法など、さまざまな要素を挙げることができます。それらを似たもの同士でグループに分け、関係性を整理していきます。
ここで大切になるのが、情報を整理する際の考え方です。
その一つが、 MECEです。 MECEとは、英語の Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive の頭文字を取った言葉で、日本語では「モレなく、ダブりなく」と表現されます。
物事をいくつかの要素に分けるとき、必要な情報が抜け落ちていないか、同じ内容を重複して扱っていないかを考えるための視点です。情報を整理・分析し、問題の全体像を捉えるうえで、ビジネスの現場でも役立つ考え方です。
例えば、財布の特徴を整理するとき、色や形ばかりに注目して、素材や収納の特徴を見落としていたら、説明に偏りが生まれてしまいます。また、同じ特徴を何度も繰り返しても、説明が分かりやすくなるとは限りません。
要素を挙げる。グループに分ける。抜けや重複がないかを考える。そして、伝える順序を組み立てる。
こうした過程を通して、情報を整理し、筋道を立てて考える力を育てていきます。
もちろん、13歳の中学1年生にとって、MECEという言葉や考え方は、少し難しく感じられるかもしれません。
だからこそ、身近な財布や筆箱を題材にします。実際に知っているものを通して考えることで、抽象的な考え方を具体的な活動として学んでいきます。

財布を説明できたら終わり、ではない
描写の授業は、財布を説明して終わりではありません。
今後は、国旗を題材にしたり、風景画を題材にしたりしながら、さまざまな対象の描写に取り組んでいきます。
題材が変われば、注目すべき要素も変わります。国旗であれば、色や形、模様の配置。風景画であれば、描かれているものの位置関係や、手前と奥の違い、色彩などが重要になるでしょう。
しかし、題材が変わっても、学習の根本にある考え方は同じです。
対象をよく観察し、要素を挙げる。それらをグルーピングし、整理・分類する。情報の抜けや重複に注意しながら、相手に伝わる順序で説明する。
つまり、描写を通して学んでいるのは、対象を説明する技術だけではなく、情報を整理し、論理的に考えるための技術なのです。
描写から小論文へ。そして、社会で必要とされる力へ
ここまで読むと、「財布を説明する練習が、小論文とどうつながるの?」と思う方もいるかもしれません。
実は、描写で身につける力は、小論文を書く際にも重要になります。
小論文では、自分の意見を述べるだけでは十分ではありません。なぜそう考えるのか。その根拠は何か。具体的にはどのような事例があるのか。こうした情報を整理し、読み手が納得できるように文章を組み立てる必要があります。
そのためには、必要な要素を挙げ、情報を整理・分類し、何をどの順序で伝えるべきかを考えなければなりません。描写の授業で取り組んでいることは、こうした文章構成の基礎にもつながっています。
もちろん、小論文を書くために必要な力は、描写だけで身につくものではありません。さまざまな教科で知識を身につけ、社会の出来事に関心を持ち、自分なりに考える経験も欠かせません。言語技術で学ぶのは、そうした知識や考えを整理し、相手に伝わる形に組み立てるための技術でもあります。
そして、この力は学校の中だけで必要とされるものではありません。
社会に出れば、会議で自分の意見を説明する場面、相手に企画を提案する場面、複雑な問題の原因を分析する場面など、さまざまな場面で論理的に考え、分かりやすく伝える力が求められます。
その際にも、情報を整理し、必要な要素を見極め、筋道を立てて説明する力が役立ちます。
もちろん、財布の説明ができるようになっただけで、すぐに小論文が書けたり、社会で通用する論理的思考が身についたりするわけではありません。
しかし、身近な題材を使って一つひとつの技術を学び、それを異なる題材へと応用していく。この積み重ねが、やがて複雑な課題を考え、自分の意見を相手に伝える力へとつながっていきます。
「財布を説明しよう!」
一見すると、簡単そうに思えるこの課題。その裏側には、情報を整理し、論理的に考え、相手に伝えるための大切な学びがあります。
履正社中学校・高等学校の言語技術では、こうした基礎的な技術を一つひとつ積み重ねながら、さまざまな場面で活用できる思考力・表現力を育んでいきます。
次回の授業紹介も、どうぞお楽しみに!

言語技術科