【理事長だより】「vol.91 見えないものを見る」

【理事長だより】「vol.91 見えないものを見る」

1ナノメートルは、1メートルの10億分の1。
その違いは、「地球と1円玉ほど」と例えられるそうです。
それほど小さな世界を、先日私はのぞいてきました。
訪れたのは、東北大学青葉山キャンパスにある「3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス)」です。
非常に明るい放射光を物質に当て、これまで見えなかった性質を分子や原子のレベルで調べる。いわば「巨大な顕微鏡」です。
「NanoTerasu」という名には、「ナノの世界を明るく照らす」という意味とともに、日本神話の天照大御神(アマテラスオオミカミ)にちなみ、その研究成果が世界に豊かな実りをもたらしてほしいという願いも込められているそうです。
世界最高水準の施設を目の当たりにして、まず出てきた言葉は、
「これは、すごい」
でした。
人間は、ここまで「見えないものを見よう」とするのか。
その科学の力に圧倒されました。

そこで、ふと昔の映画を思い出しました。
『ミクロの決死圏』です。
医療チームが小さくなって人間の体内に入り、病気を治す物語でした。
中学生だった私は、
「本当にこんなことができたら、すごいのにな」
と胸を躍らせたものです。
当時は空想だった「目に見えないほど小さな世界」に、現代の科学は確実に踏み込んでいます。
薬をナノサイズにして、必要な場所へ届ける技術もその一つです。
少年時代の夢物語が、少しずつ現実になっている。
そう思うと、不思議な感慨がありました。

もう一つ、惹かれたことがあります。
この最先端施設を、高校生も利用していることです。
宮城県農業高校の生徒たちは、地元の仙台牛をナノテラスで分析しました。
「仙台牛を、ナノの世界から見る」。
その発想だけでも、好奇心をかき立てられます。
普段なら「おいしい」で終わるものを、
なぜ、おいしいのだろう。
何が、そのおいしさを生んでいるのだろう。
と、もう一歩踏み込んでみる。
すると、見慣れたものが急に違って見えてきます。
一つ分かると、その先にまた新しい「なぜ」が生まれる。
私はそこに、探究の面白さを感じました。

ナノテラスの見学を終えて、心に残ったことがあります。
見えなかったものが見えると、「答え」が増えるのではなく、「問い」が増える。
詳しく見れば見るほど、それまで気づかなかった違いや奥行きが見えてくる。
知ることは、世界を単純にするのではなく、むしろ広げていく。
それは少し不思議で、けれど、とても奥深いことです。
ナノテラスは、目に見えない小さな世界を照らす施設です。
その小さな世界をのぞいたことで、かえって世界の広さを感じました。
見えなかったものが見える。
すると、世界は少し違って見えてくる。
学ぶということは、きっとその繰り返しなのだと思います。

【参考資料】

「ようこそ – NanoTerasu | 3 GeV Synchrotron Radiation Facility in Japan」
NanoTerasu 公式サイト
https://www.sankei.com/article/20250114-VXYROUSHWBLNBEMPLRVH7JUM2Q

「ナノテクノロジーってなに?」
 文部科学省
https://www.mext.go.jp/kids/find/kagaku/mext_0010.html

「<高校生の利用は“初めて”>巨大な顕微鏡と呼ばれる放射光施設『ナノテラス』 高校生が“仙台牛”を分析 『おいしさを“見える化”できるんじゃないか』」
ミヤテレNEWS NNN(宮城テレビ放送、2024年10月17日掲載)
https://youtu.be/QlfvnNoZKqU?si=v2rXsgKm6bNUv26V

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