「運も良かったけど、努力したから成功したんです」。これは、ある新人営業マンが企画を成功させた際に語った言葉です。彼はクライアントの元へ何度も足を運び、信頼関係を築きながら相手のニーズを的確に把握しました。そして最適なタイミングで提案を行い、大きな成果をあげたのです。このエピソードは、「運」と「努力」の関係性を端的に示しています。運は偶然ではなく、準備と行動によって引き寄せられるものだと感じさせられます。
「運も実力のうち」という言葉がありますが、これは単なる至言ではありません。運は待つものではなく、日々の努力や行動がその土台を築きます。幸運を得るには、その瞬間に備える準備が必要です。
大きな成果を出した人々は「運」の存在を軽視せず、むしろそれを意識して行動しています。例えば、メジャーリーガーの大谷翔平選手は、高校生の頃に作成した「目標達成シート」に「運」を重要な要素として挙げていました。具体的には、「運→ごみ拾い→運を拾う→応援される人間になる」と運を引き寄せる行動を視覚化していたのです。
実際、大谷選手がグラウンドで落ちているごみを拾う姿は、多くの人々に感銘を与えています。それは単なる礼儀ではなく、彼自身が「信頼される人間であること」を意識して積み重ねてきた行動です。スポーツ誌『Number』のインタビューでは、「野球の神様が味方してくれると思ったのでは」という問いに対し、「それを運と呼ぶかどうかは人それぞれですが、野球を辞めた後も、自分がどういう人間でいられるかが大事」と答えています。彼にとって、「運」とはただの偶然ではなく、人間性や行動が運を引き寄せる鍵だという信念があるのです。
また科学の分野でも、ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の本庶佑特別教授は、エッセイの中でこう述べています。「石ころが石ころのままで終わるか、ダイヤモンドになるかは運の問題もある。ただし、その運をつかむためには研究者の嗅覚が重要だ」と、「運」を認識しつつ、それを生かす努力が重視されています。
ここで言う「嗅覚」とは、ただの直感ではなく、好奇心や根気、そして絶え間ない挑戦から生まれるものだと思います。好奇心が新たな可能性を見出し、挑戦が困難を乗り越える力を育てる。このような行動の積み重ねが「運」を活かせる力を育むのです。本庶教授が言うように、運を単なる偶然にしないためには、準備と行動が欠かせません。
私たちの日常生活でも、幸運の要素は少しの努力と工夫によって引き寄せられることがあります。たとえば、試験勉強で「山を当てる」ことができた経験はないでしょうか。それは単なる偶然ではなく、日頃の学習によって培われた知識と直感の結果です。あるいは、宝くじが当たるという幸運も、まずは宝くじを買う行動があってこそ実現します。つまり、運は「行動する者」に訪れるのです。
しかし、どれだけ努力を積み重ねても、それだけではどうにもならない部分があるのも事実です。大谷選手も「最後にツキという要素が加わるのが野球の難しさ」と語り、本庶特別教授も「運の問題は否定できない」と述べています。運は自分の力だけでは完全にコントロールできない要素であり、それが人生の不条理でもあります。しかし、その結果をどう受け止めるかが次の行動を左右します。「運が悪かった」という言葉は、単なる嘆きではなく、気持ちを切り替え、新たな一歩を踏み出すための有効な言葉なのです。
2月や3月は、多くの人にとって受験や試験という大きな節目の時期です。結果がどうであれ、自分の努力を誇りに思いましょう。成功を収めた人は、自分の努力が運を引き寄せたと自信を持つべきです。一方で、思い通りにならなかった人も、「運が悪かった」と気持ちを切り替え、次に向けた準備を始めましょう。その行動が、未来の幸運をつかむ力になるのです。
運は偶然の産物ではありません。それを味方につけるかどうかは、私たち次第なのです。
参考資料
● 大谷翔平選手
Number WEB / ダイヤモンドオンライン
● 本庶佑特別教授
京都大学大学院医学研究科 免疫ゲノム医学 エッセイ